広報が「しまった」と思った瞬間
とある企業がありました。
仮にA社と呼びましょう。従業員数も多く、大手と言える会社です。
その日、その企業はかねてから交渉を進めていた米国の企業と業務提携を結ぶための調印の機会を迎えていました。
調印後は懇親のために多くの幹部同士が出席する会食会というスケジュールになっていました。
「しまった」
同行していたAの広報責任者が焦ったのは、その会食での出来事です。
スマートな雰囲気でホストぶりも完璧に食事をする米国企業幹部。
それに対して、A社のの幹部の食事の仕方はあまりに、あまりにガサツだったのです。
広報が「しまった」と思ったのは、日本、米国どちらともいくつかのマスコミの取材担当もその場にいたことでした。
Aの広報担当は語ります。
「さすがに、
それで提携が壊れるってことはなかったし
どこかのメディアに面白おかしく
書かれたわけでもありませんでした」
しかし、その広報担当はこうも言います。「その場に居合わせたほとんどの人の目にAがどこか「格下」という印象を与えたのは間違いない。それが悔しい」。
企業風土や企業の文化度は、社会的『評価』に影響します。幹部の振る舞いは企業風土や企業の文化度を如実に表します。”格下”と感じさせるようでは良い影響には決してならないと言えるでしょう。
広報担当の方は続けます。
「そのときに、役員になる人には全員ポジションに見合った振る舞いの必要性を痛感し、幹部研修には、マナーや公的な場所での振る舞いも入れなくてはならないと考えました」。
幹部になってからでは遅すぎる
こんな風に、海外とのやり取りの中で課題認識をし、エグゼクティブ研修を考えた企業から研修の依頼を受けることは少なくありません。
「マナーや公的な場所での振る舞い」を幹部が学んでおくことの必要性は、国内で過ごすだけでは、あまり誰もピンと来ないものなのかもしれません。上級職になっていくにつれて「マナーなんて新人の頃にするものだ」とか「食事の仕方くらいわかる」と、自分は大丈夫であるという感覚を持つ方が多いようです。また、「そのうち必要があったらそのとき習えばいい」と思う方も多いと聞きます。
その「今さら」「いつか」が、いざ海外に出ると、通用しなかったというのが冒頭の話です。海外勤務経験のある方が入社して日本企業の中枢で勤務すると幹部の振る舞いのレベルがお世辞にも高いと言えないことに驚いたというお話もどこそこで聞きます。
マナーや振る舞いというのは、頭で知っていることで役立つものもありますが、身体に身についていることで、初めて役立つものが結構多いのです。例えば、箸をどのように使うのかを頭で知っていても、実際にきれいに食べることができるような箸使いができるかどうかは別物です。
また、フレッシュな新人であれば、多少ぎごちなくても「がんばっている感」が好印象に結びつくことがありますが、それが幹部となれば社会的な成熟感がない未熟な印象となるばかりです。付け焼刃は意味が無いのです。
ですから、本番でモノになるような振る舞いを身につける場合は、本番よりだいぶ前に身につけることをスタートする必要があります。幹部になってからでは遅く、幹部になる前の段階で、必要なことを見直し、必要なレベルに達していないものがあれば早めにチェックしておけば、「いざ」ということになっても安心です。
幹部の振る舞いは企業のブランドである
企業幹部はその企業の窓口となる人です。そして企業の風土や企業の文化度を体現する立場です。それは外部に対してもそうですし、内部に対しても同じことです。振る舞いが今ひとつな上位者を見て、モラルやモチベーションを上げられる人は少ないでしょう。
幹部になる人がいるなら、その立場にふさわしい振る舞いを整える機会を設けるべきです。
これは企業にとっては外部、内部両方に対するブランディングのファクターでもあるのです。
人は仕事のステージが上がれば、それに応じて必要なスキルも変化し増えていきます。最初は純粋な仕事の仕方だけですが、コミュニケーションや人材の取り扱い方も必要になっていきます。自分のカンや知識だけでは立ちゆきません。どこかで自分のレベルを見直したり新たな学びの場を設けることは、どの企業でもするはずです。ここに、人と接するときの各種場面での振る舞い方という項目が加わらないのはおかしな話です。
新入社員には新入社員に必要なレベル、幹部には幹部に必要なレベルがあります。
ここで「幹部になるくらいの人なら、必要なレベルのマナーや振る舞いは身につけているはずだから必要ない、と思われる方もいるかもしれません。
しかし、冒頭の話のような例は決して少なくありません。なぜなら、あいにく日本では海外に比べて社会人が「振る舞い」をちゃんと学ぶ機会はかなり少ないのが現状だからです。ことに、食事の仕方やパーティでの振る舞い方は、学生~社会人になる過程ではまず触れる機会はありません。それなのに、いつの間にか「できるはず」になってしまっていないでしょうか。
私立の学校ではマナー実習などを取り入れているところもありますが、社会人レベルで企業文化を伝える場面で通用するものではないのです。
実際、企業研修で経営幹部の方々にその分野についてお伝えすると「知らなかった」「今まで間違っていた」という反応が非常に多いのですが、それは、そのテーマの研修の中だからはじめて口にできることです。
多くの幹部層には「年齢やキャリアからして、これくらいは知っていて当然」「当然わかっているはず」とされているプレッシャーがあり、ふつうは正直に言えず人知れず心配を抱えている人がいる可能性もがるのです。
そう考えると、エグゼクティブ(実力者・経営幹部)としてあらためて振る舞いを整える機会を作れば、ブランディングもでき、幹部層の人知れない心配も解消できます。どの企業もそのような機会を誰かが幹部としてデビューする前に作るべきです。
どんなステージにあっても国内外で活躍する人材に
何度も言いますが、幹部は企業ブランド、企業文化やレベルを体現する存在です。CIデザインや広報活動と同じように、幹部の振る舞いもデザインすることがこれからの企業には必要です。
企業がいたずらに面目を傷つけることがないよう、幹部がいたずらに心配しないで済むよう、振る舞いを整える研修機会を整備し、研修実施をスタンダードとする体制をぜひ構築してください。
そのような体制づくりは、幹部のパフォーマンスも上げるはずです。仕事ができる人材であれば、
どんなステージにあっても、臆することなく堂々と才覚を発揮できるように環境を整備するようお考え下さい。誰もが自分の役割やポジションに見合った振る舞いを身につけ、堂々とに自信をもって国内外で活躍できるようにお考え下さい。
幹部は外部からも内部からも見られる存在ですが、SNSの発達や、オンラインでの情報の配信も手伝い、今はさらに「見せ方」や「振る舞い」が問われる時代となっています。
見せ方や振る舞いも、ある層以上になると重要なビジネススキルの一つです。幹部になる前に知るべきことを知っておきましょう。
丸山 ゆ利絵
プレゼンスコンサルタント®/アテインメンツ合同会社 代表
幹部・リーダーのプレゼンスこそが企業の実力と可能性を内外に伝えます。
経営幹部のプレゼンス向上、エグゼクティブ養成のための研修プログラム等です。幹部・リーダーなど「キーパーソン」が見せる存在感や振る舞いこそ企業の実力と可能性を内外に伝えます。ビジネスを有利にし内部の向上意欲を高める人材育成をお手伝いします。
ポジションや役割にふさわしい佇まい、振る舞いのグレードアップ、リーダー的立場にふさわしい卓越したコミュニケーション力、品格があらわれる服装、エグゼクティブにふさわしいマナーなどのテーマのほか、海外赴任者に特化したプログラムが用意されています。
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